衆議院選挙で、ホリエモンこと、ライブドアの堀江貴文社長が立候補を表明してからというもの、広島6区は全国から注目の的となった。出版社の人たちと電話で話をすれば、「今、尾道は大変なことになっているでしょう」と口々に言われ、その度に「ええ、大変なことになっていますよ」と答えた。確かに、街じゅうが浮き足立っている感じがしていた。
もともと、小泉郵政改革に対して徹底的に反対してきた亀井静香さんの地盤として広島6区は話題の中心にあり、落下傘とか刺客と呼ばれる候補者も大物が立つに違いないと噂されていた。
最初に立候補者として噂にのぼったのは、竹中平蔵郵政改革担当大臣。この話を聞いて、すぐに『郵政民営化「小さな政府」への試金石』(竹中平蔵・PHP研究所)を大量に発注した。しかし、竹中さんがあっさり否定して、立ち消えた。次に噂されたのは、猪瀬直樹さん。今度も、すかさず『決戦・郵政民営化』(猪瀬直樹・PHP研究所)を発注した。が、これまた違っていた。その後も、田中秀征さん、東ちづるさんなど、次々と名前が挙がってきたが、この時には、「もう決定するまでは動かない」とひらき直っていた。
とにかく、選挙も気になるが、商売にどれだけ影響があるかも気になってしかたがなかったのだ。
堀江貴文さんが尾道に来てからというもの、ますます過熱状態。「ホリエモンが、昨日、尾道ラーメンを食べていた」「その前は、映画『男たちの大和/YAMATO』ロケセットを見学していた」などと、毎日、堀江さんの話題で持ちきりだ。わたしもクルマで配達の途中、尾道市役所の前を通ると、二十台以上のタクシーが待機しているのを見て驚いたが、あとで聞けば、堀江さんが尾道市長に挨拶に来ており、タクシーはマスコミがチャーターしていたものだった。その後、堀江さんはお隣の三原市長のところにマスコミを乗せたタクシーを伴って移動したそうだ。
堀江貴文さんの本は、とにかくよく売れた。『稼ぐが勝ち』(光文社)、『100億稼ぐ仕事術』(ソフトバンク・パブリッシング)など何でも売れ、堀江本コーナーはどんどん拡がっていった。
一方、国民新党を旗揚げしての戦いとなった亀井静香さんも広島6区に帰って来た。近年、亀井さんは選挙になっても地元に戻ることはなかったが、さすがに今回は違った。精力的に6区をまわっているらしい。
書店売場は、堀江本に加え、『月刊亀井静香』(アスコム)、『ニッポン劇的大改造』(扶桑社)など亀井コーナーも併設されていく。
そんななか、社内で、この堀江コーナー、亀井コーナーのことで意見交換が始まった。そして、とにかく、特定の候補者に偏った展開をすることはやめようということで一致した。候補者は二人だけではないが、民主党の佐藤公治さんも、もう一人の候補者にも著書はない。だからといって「ホリエモンVS亀井静香」といった表現でコーナー展開はすべきでない。話題性のある候補者の著書に偏って大々的に取り上げるべきでない。
テレビでは、連日、広島6区候補者のインタビューが映し出されている。「まさか解散総選挙になると思っておらず判断を間違えたのでは?」「刺客を差し向けた自民党についてどう思うか」といった質問ばかりをぶつけておいて、一方で、今回の選挙では政策論が交わされていないと司会者は嘆く。政策を語っても、その内容に一切触れず、「しゃべり方が歌舞伎調で古くさい」とか「何を言っても恨みつらみにしか聞こえない」というコメントだけを残す。まるでマスコミが作ったフィルターを通して物事を見て、そのイメージが決まっていくような錯覚さえ感じる。
わたしたちの住む尾道は小さい町だから、それぞれの候補者を必死で応援する人たちの姿がよく見える。わたしたちは、どの党を、誰を応援するというのはないが、選挙戦を茶化したり、煽ったりするのはやめようと話し合った。もちろん、本が売れるということは需要があるということだから、店頭からはずすということはしない。けれども、POPを付けず、コーナーを一等地からはずし、売場の一角で淡々と販売することにした。いろいろ考えた末の決断だったが、わたしは、今でもこれで良かったと思っている。
堀江さんは、連日、どこに行っても、溢れるほどの人に揉みくちゃにされるほどの人気だったが、それでもまさか当選はないだろうと踏んでいた。亀井さんにして佐藤さんにしても長年、地元に根ざして来た政治家だ。堀江さんが若い人に人気があるといっても、広島6区には選挙権を持つ若い層は少なく、高齢者と呼ばれる人が大半を占めていた。他の選挙区ならともかく、広島6区では万にひとつも勝ち目はないというのが大方の予想だったに違いない。
投票が終わり、結果は皆さんもご存知のとおり。堀江さんは驚くほど多くの票を獲得した。「若いくせに礼儀知らずで、ナマイキ」「カネの亡者」とマスコミで評されていた堀江さんは、会って話をしてみると、実はとても爽やかで常識的な青年。選挙区内の多くの人がそう感じたようだった。それは堀江さんのポーズに騙されているのかもしれないし、見る眼がないのかもしれないが、マスコミからの情報でなく、自分たちが直接見聞きしたもので判断を下したはずだ。もちろんそれは、亀井さんに対しても佐藤さんに対しても。
情報を発信する立場でもある書店にどこまで影響力があり、どこまで責任が委ねられているかわからないが、勝手なフィルターを作って見誤らせることのないよう、バランス感覚と素直さは持ち合わせてゆきたいと思う。
何事も判断するのは、お客さんだ。