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第3回

インターネット巨大掲示板から生まれた『電車男』(中野独人/新潮社)が、ここに来て再び注目を集めている。コミックになり、映画になり、さらにはテレビや演劇も始まろうとしている。秋葉系オタク少年が繰り広げる純愛と、顔さえ知らぬ仲間たちとの友情物語は、形を変えて増殖している。

再燃する『電車男』をどこの売場でどのように売っているのだろう。気になって書店を見てまわった。見てまわってあることに気づいた。『電車男』の隣に置いてある本が微妙に違うのだ。
ある店では、『電車男』の隣は、『今週、妻が浮気します』(GoAhead&Co./中央公論新社)、『痴漢男』(板野住人/双葉社)。いずれも、『電車男』に続けとばかりに出版されたインターネットで話題を集めたストーリーの単行本化だ。おもしろい本が並んでいるなあと思い、忘れないようにその場でメモを取った。「電車 男 妻が浮気 します 痴漢 男」。他の人に見られたりしたら品性を疑われそうで怖い。
また、別の店では、『エルメス』(戸矢理衣奈/新潮新書)と『エルメスの道』(竹宮恵子/中公文庫)を『電車男』の横に並べていた。電車男が想いを寄せる女性の通称「エルメス」から連想しているのだろう。

どこに視点を置くかで、本の並べ方や売場のつくり方はどうにでも変わるのだからおもしろい。
ヴィレッジヴァンガード、菊地敬一社長は、インタビューで、「棚を作ること」は「編集する」ということ、独自に生み出した陳列方法は「連想ゲーム」のようなものと話している。「連想ゲーム」は、隣に並べる商品群を増殖させ、お客の好奇心を増殖させ、その結果、ヴィレッジヴァンガードは増殖した。

棚を編集するために必要なものは何だろう。当たり前のことのように語られる「棚の編集」作業は、実はなかなか難しい。本の内容をよく知っていなければ連想できないし、いっしょに並べる本を探し出すには知識も必要になる。何よりセンスが必要だ。実際、編集された棚を探してみてもなかなか見当らない。
それでもいくつか挙げてみる。

(A)『ダ・ヴィンチ・コード』(ダン・ブラウン/角川書店)+『マグダラのマリア』(岡田温司/中公新書)
(B)『リセットダイエット』(篠塚蘭美以/幻冬舎)+『脂肪という名の服を着て』(安野モヨコ/祥伝社)

組み合わせは異なるジャンルの方がおもしろい。
安藤哲也さんは、著書『本屋はサイコー!』(新潮OH!文庫)で、本と本が織り成す連関性やメッセージを楽しませる「文脈棚」には「本の置き場には『本籍』と『現住所』がある」という考え方が必要だと説いていて、この表現はとてもわかりやすい。編集された売場は、好奇心を刺激するメディアへと変貌を遂げる。安藤さん流の言い方をすると、棚の文脈をダイナミックに編集してひとつの空間メディアとして見せるのだ。

(C)『渋谷ではたらく社長の告白』(藤田晋/アメーバブックス)+『人を動かす』(D・カーネギー・創元社)

本のコーディネートは、電車男に仲間がアドバイスした、エルメスさんとの初デートにふさわしい服装「ジーパンに、コムサのインナー+ジャケット」といったわかりやすく理解しやすいものばかりでないので、POPも重要になる。『渋谷ではたらく社長の告白』の中で、藤田晋さんが「苦しい時代に『人を動かす』を熱心に読んだ」と告白していることや、いろいろなメディアで、影響を受けた本として『人を動かす』を紹介しているという情報を売場で展開した方が説得力を増すからだ。

とにかく、わたしたちは同じ本でも並べ方ひとつで売行きが変わることを忘れてはならない。「出版社が売れない本ばかり作るから」、「取次会社が欲しい本をなかなかくれないから」と、ともすれば、書店は売上が上がらない理由を出版社や取次会社のせいにするし、売れない理由を並べる時の書店はいつも受け身だ。
しかし、書店にもイニシアチブを取れることがある。「どこに置き、どのように置くか」と「何を、どれだけ返品するか」。この二つだけは、誰に何と言われようと自らの意志で決定し、実行することができる。この事実を再認識しておきたい。
そしてもう一つ忘れてはならないこと。

売場を編集していくことは、お客だけでなく、書店員にとって仕事の楽しさを増殖させる。

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