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5月25日(日)

 妻と息子がプラネタリウムへまた行きたいというので、府中郷土の森博物館(三度目)へ。
 満席だったためしがないから、そんなに流行っていないのかもしれないが、リピーターは多いらしく、もう何回来たかしら、なんて言ってる人もいる。
 こないだ観たばかりなのに、またも娘は、
「ねえ、これ、ほんとにどっか行ってるの? またおうちに帰れるの?」
 と不安げ。
 おうち? そんなもん、帰れないほうが面白いじゃないか。
 
『酩酊混乱紀行「恐怖の報酬」日記』恩田陸著(講談社文庫)を本屋でちらりとめくった瞬間に即購入。飛行機が怖い話が延々書いてあったからだ。恩田陸はどのように飛行機の恐怖を克服しているのか、それを参考にしたい一心だった。
 しかし飛行機部分を熟読するも、具体的な方策は書かれていなかった。ひたすらパニックと戦っているだけのようだ。なので残念ながら参考にはならなかったが、乗る前から〈あのなかで発狂したらどうしよう〉とビビっているあたり、涙なくして読めない。まったくもってかわいそうであり、かつ、これが自分じゃなくてよかったと思う。私も、アジアならともかく、ヨーロッパまで平常心で飛ぶ自信はない。
 それにしても、この取材旅行が生まれて2度目の飛行機だというから、恩田陸の飛行機嫌いは私の比ではないのだろう。私は怖い怖いと言いながら、おそらくもう100回以上は乗っている。それだけ乗っておいて怖いも何もないだろ、と言われるかもしれないけれど、それは私の飛行機恐怖症がたいしたことないわけではなく、海外旅行へ行きたい度が、その恐怖をはるかに凌駕しているからである。
 それでも南米ぐらいになると、その長い飛行時間中にそれこそ発狂は確実なので、いまだ行けないでいる。
 先日心療内科へ行った際、
「これはパニック障害なんでしょうか」
 ときいてみたが、
「実際に乗れなかったことはないんでしょう?」
 と言われ、たしかに直前で降りてしまったとか、乗っていて気を失ったとか、そういうことは一度もなかったので、やっぱり自分程度の飛行機嫌いは、まだまだ甘いのかもしれない。
 恩田陸は、作家には飛行機嫌いが多いと書いていて、向田邦子は有名だが、スティーブン・キング、アーサー・C・クラーク、レイ・ブラッドベリ、スタンリー・キューブリックなどの名を挙げていた。たしか高橋克彦も自分で書いていたはずだ。高橋克彦はさらに水が怖くて顔も洗えないそうだから、相当な怖がりであるが、SF作家に飛行機嫌いが多いのは、なぜだろう。
 ひょっとすると飛行機が嫌いなのは、人間関係における苦悩が少ないからではあるまいか。人間関係の苦悩が少ないと、書く小説も私小説と対極のものになり、なおかつ日常に悩みがないから飛行機ごときが怖くなるという仮説。少なくとも、私自身は人間関係で悩むことがあまりない。虐められたり悪口言われても、馬耳東風である。自分の言葉が人を傷つけたんじゃないか、なんて場合も、言ってしまったもんはしょうがないって感じで、いつまでも悩まないし、それで嫌われたとしても、ま、友だち減っても全然オッケーと思うタイプだ。SF作家がみなそうだとは言わないが、そういう人が飛行機嫌いになる傾向がありはしないか。恩田陸に、友だちが減っても気にしないかどうか聞いてみたいものだ。

5月26日(月)

 朝、家にスズメバチが入ってきて、あまりのデカさにたじろいだ。さすがスットコランドのスズメバチだ。なんとか無難にお引取り願いたかったのだが、ガラスにガンガンぶつかるばかりでらちがあかない。
 部屋に入ってきた虫が、外に出たいのにちっとも出られない光景を見るにつけ、虫にだけわかる「出口はあちら」のサインを擦り込んだガラスが開発されないものかと思う。
 結局外へ誘導できず、殺虫剤で撃破。
 
 締め切りはまだだが、早めに書評エッセイを書いて、寝かせておく。うまくすると醗酵する場合があるからだ。
 
 四国遍路のガイドブックをアマゾンでいろいろ取り寄せて、空いた時間に、計画を練っている。一周通しで歩いて四、五十日かかるらしい。歩くとすれば一度では行けないから、区切り打ちということになるだろう。でも、歩きにこだわってるとそればっかりになりそうだ。もっと自由に寄り道とか観光がしたい。歩きだと寄り道する体力的余裕はさすがにないだろう。ただでさえ寄り道すると日数はさらに増え、金がかかる。どうしたものか。
 さらにハワイのガイドブックも本屋で購入し、こっちもあれこれ検討。今まで行ったことがなかったけれど、なんだか楽しそうである。ギネスに載ったパイナップルの迷路がある。エイに餌付けできるプールもある。なぜかはわからぬが平等院まであった。平等院?
 しかし、もはや書き尽くされた感のあるハワイについて、いったい私が何を書くのか、それが問題だ。ダイアモンドヘッドに巨大な仏像でも立っていればいいのだが。

5月27日(火)

 快晴。
 仕事場への道は、横断歩道やガードレールがギラギラと照り返してまぶしいぐらいであった。
 暑くても風景が明るいのはいい。それだけで、生きてるなあ、という気分になる。
 結局私はいい風景を眺めるために生まれてきたのではないか、とさえ思うことが時々ある。そうして時間も空間も自我さえもない退屈な死後の世界で、それをプリントアウトしてみんなに配るのだ。
 連載エッセイ8枚をUP。これが今度の単行本に収録される最後のエッセイになる予定。
 
 今週末は久々に晴れそうなので(ここ一ヶ月週末は必ず雨だった)、キャンプに行きたいと妻が言う。それでインターネットでキャンプ場を探して、あれこれ計画した。妻は海の近くがいいと言うが、私は群馬県に行きたい。縁もゆかりも親戚も友だちもないが、なぜか昔から群馬県が気になる。地形がメリハリに富んで、すごい風景に出会えそうだからだ。ビバ、群馬県!
 それと同時にハワイの企画を考え、四国についても思いをめぐらせ、さらに宮古島の件で敵と戦ったりして、なんだか頭の中が旅行で埋め尽くされている。結構な身分としか言いようがない私だ。

5月28日(水)

 胸やけがして朝早く目覚めた。
 なぜ胸やけするのか身に覚えがないが、目が覚めた瞬間に思ったのは、四国遍路じゃまくさい、ということだった。
 昨日まで盛り上がっていたのに、なぜまた急にそんなことを思うのか。
 以前潜りに行って感動した柏島の海や、うまかったさぬきうどんのこと、そしていつかカヌーで下りたい四万十川のことなど、四国のいい面ばかりを思って浮かれていたが、それと一周歩くのは別の話だということに今になって気づいたのである。あんな大きな島を一周歩くなんて、このものぐさな私が途中でイヤにならないはずがない。
 参ったな。
 しかも面白くなくてやめるのならともかく、面白そうなのに、しんどいからやめるなんてことは自分のプライドが許さない。
 浮かれてるけど、覚悟が足りないんじゃないの?
 胸やけは、たぶんそれを私に伝えたかったのだ。
 意味もなく胸やけするときは、いつも新しい発見がある。
 
 毎月通っている病院へ定期検査に行ったついでに、江東区の東京都現代美術館に寄る。
「大岩オスカール 夢みる世界」と「屋上庭園」というふたつの企画展が観たかった。「屋上庭園」は庭園という言葉に惹かれていたのだが、植物の絵が多いだけで、庭園と題するのは、こじつけくさかった。大岩オスカールは、絵がたどたどしくて、もうちょっとがんばってほしい気がしたものの、そのたどたどしさに人の良さを感じた。
 電車の中で先日買った『中世の東海道をゆく 京から鎌倉へ、旅路の風景』榎原雅治著(中公新書)を読む。浜名湖が昔はあんな露骨には海と繋がっていなかったことを知る。そうじゃないかと思っていた。

5月29日(木)

 とある基金の加入者向けの会報で、はめ絵コーナーを担当している。毎回お題を出し、子どもたちから届いたはめ絵にコメントをつけたり、模範解答を描いたりする。今日は一日それをやっていた。ときどき、予想を超えたわけのわからん絵が届くので子どもは面白い。どう見ても犬か鳥のようなものをはめたくなるであろう形に、畑をはめてきたりする。
 なにぃ、畑?
 思わず誌面に採用してコメントで絶賛する。

 妻に言われたからではないが、このところずっと悩んでいた日常エッセイの連載をやめる決心がつく。逡巡の末、その旨、担当編集者のテムジンさんにメールした。

 週末は、やっぱり雨になりそうで、キャンプ計画潰える。群馬県はまたの機会か。

5月30日(金)

 産経新聞の見本紙が届く。毎週4人持ち回りで、サブカルに関する連載を持っていたのだが、4月以降そのうちふたりの連載がなくなって企画ものに変わっている。ふたりは連載をやめたのだろうか。知らなかった。
 おかげで自分も無性に仕事がしたくなくなり、仕事場へ行って、一日ぼーっとして過ごした。サラリーマン時代は、仕事中多少ぼーっとしていてもお金が入ってきたが、今はぼーっとしているとお金が入ってこない。入ってこないどころか家賃が出ていく。
 その浪費しているなあという実感が、今日は素敵だ。正確にいうと、浪費をものともせずぼーっとしていることに、瑞々しい充実感がある。このぼーっは単なるぼーっではない、これこそは未来の大変革を促すための戦略的ぼーっなのだ、と都合よく解釈し、ますますぼーっとした。
 だが、ぼーっの蓄積が将来何かを生み出すなどと考えているうちは実はまだまだで、何も生み出すもんか知らん知らんプー、ぐらいの境地にならなければだめだ。何ひとつ生産的な要素のない無意味なぼーっ。妻が仕事休めと言っていたのも、この延長だろう。
 
 テムジンさんから休載了承のメール届く。
 ずっとお世話になっていたので、申し訳ない気分。収入も大幅に減って、生活が苦しくなるが仕方がない。

5月31日(土)

 キャンプは雨でなくなり、子どもを1000円カットに連れて行く。妻は近所のお母さん友だちと飲みに行った。
 深夜に帰ってきた妻によると、近所では、宮田家は家賃補助もないのに家のほかに仕事場を借りているし、宮古島に旅行に行くというし、結構金持ちなんじゃないかと思われているという。
 全然ちがいます。
 貯金を削り、この身を削って生きているのです。

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