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5月4日(日)

 道志川のキャンプ場でバーベキュー。
 子供の幼稚園仲間の家族6組で、大挙して出かける。
 キャンプ場は満員で、まるで駐車場のようだった。駐車場でバーベキュー。いっそ今なら都心の駐車場でバーベキューしたほうがのびのびするのではないか。
 それでも、上を見上げれば新緑の山が目にまぶしく、常に仰向いていればなごむことを発見した。今度またゴールデンウィークじゃないときに、来てみたい。
 自分では、バーベキューなど、準備も後片付けもすべてが面倒なのでまずやらないが、今回はそういうことが好きなお父さんがひとりいて、キャンプ場の選定から場所取りからほとんどおまかせで助かった。燻製たまごなんか作ったりして、頼もしいことこのうえない。子供たちもおおはしゃぎで、そういうバーベキューなら今後もぜひ行きたいが、行くも行かないもその人次第である。
 他力本願もいいところであるが、私は自力でバーベキューなんかしてるひまがあったら、その時間を、川に石を投げてピョンピョン跳ねさせたり、上流から何かを流してそれを石で狙ったり、川原に溝を掘って水を別ルートへ誘導し、おお、ダムが決壊しました、とか言ってみたり、それをまた足で意味なく塞いでみたりして、有意義に使いたい。
 しかし今日のところは、他の大人たちが働いているのに自分だけ有意義では申し訳ないので、カメラ係を買って出て、自分の子や他人の子たちを、バシャバシャ撮影した。
 
 バーベキューのお父さんと、B型の話になる。なんでも今、B型に関する本が出ていて、その内容がよく当たっているのだそうだ。そのお父さんと私はB型であった。
 そうやって牧歌的な話をだんだんするつもりだったのに、気がつくと、その人の奥さんと私の妻が参入して、B型がいかに人の話を聞いていないか、という話に方向転換させられていた。納得いかない。
 妻は、こういうことがあった、ああいうこともあったと、声高に訴えたが、身に覚えのないことばかりである。そんなことあったっけ? と軽く反論してみたが、ほら、というように覚えてないでしょ、とたたみこまれた。大失敗。
 反論は相手の思う壺、という鉄則を忘れていた。

5月5日(月)

 何日も続けて休んでられないので、仕事場へ行ってパソコンを開いたところ、突然何の超自然現象であろうか瞬間移動が起こり、気がつくとロンドンの駅前にいた。

 日本人家族の経営するカフェがあって大人気。山水の庭があって、私は、何かネタになるのでは、と思って調べていた。小さな池にいろいろな生き物の骨格が沈んでいる。
 経営者の奥さんが、うちの子がいつもお世話になっていますと言うので、いえいえお世話になっているのはこちらのほうです、と反射的に答えた。しかしどうやらそれはそばに腰掛けた年配女性に言ったらしいと気づき、うっかり返事なんかして恥ずかしく思う。

 それから日本人の青年が話しかけてきて、自分はやりたいこともなく、こんな場所をうろうろしているのだが、それをある人に軽蔑されていると言うので、人生そんな時期もあるよ、となぐさめる。若者は、気安くなって、実は一目惚れした女の子がいるのだと言い、その子も日本人旅行者で同僚とロンドンに来ているのだと耳打ちした。同僚と旅行中なら、すぐ日本に帰るだろう、しかもロンドンにいるということは、今日明日に帰ってもおかしくないと言ってやると若者はかたまってしまった。

 ところがそれは時間かせぎで、しばらくするとその店が日本人の集会場になり、若者が壇上にあがった。リーダーだったらしい。同僚と旅行中という女の子(緑色の服)も集会に参加していて、どうやらだまされたと思う。すぐに立ち去ってもよかったのだけれど、立ち上がるのが面倒くさい。食事が出たが、借りを作らないよう食べなかった。
 参加者が適当に指名されて何か話をする。話の内容から集会の目的を探ろうとするものの、みなとりとめのない四方山話。
 年配のおっさんが指名された。サソリ駆除の専門家だという。サソリを殺すにはこれを使う、と平たいソリのようなのプラスチック容器を取り出した。ふたが2つあって、こっちのふたにAの気体、こっちのふたにはBの気体を入れ、それが混じるとサソリを殺す。原理はそうだが、このBに残った気体がいい仕事をするのだ、と語った。何か教訓くさい話をするのだろうか、B気体はいったいどんないい仕事をするのだろうと、続きを待っていたが、別の人が指名されて、その話は終わってしまった。
 私はいつの間にか色鉛筆をたくさん手に持っていて、その芯がバキバキ折れている。もうすぐ自分も当たるのかな、もし当たったら、リーダーがそちらの緑色の服の女性に一目惚れしたというので、すっかり信じてしまいました、と笑いでもとろうか、と考えている。

 そこで目が覚め、日本は夕方だったので、うろたえる。時差の関係か。
 わざわざ子どもの日に仕事場へ出かけて一行も原稿書いていないとは言えないので、いかにも丸一日仕事していたかのような、なにくわぬ顔をして家に戻った。
 
 そういえば帰宅途中の本屋で、昨日話題になった『B型 自分の説明書』Jamais Jamais(文芸社)を見つけて立ち読みした。すると、
 □行事とかイベントで、なんかいつもカメラ係。
 と書いてあり、驚いた。ほかにも、
 □なんかものぐさ。(使い切ったトイレ紙の芯は床にポイ)
 も当たっている。トイレットペーパーの芯問題は、まさにいつも妻に注意されていることだ。
 □店内にいるとき、悪いことしていないのに挙動不審。
 おお、まさにそれは私のことではないか。さらに、
 □絶叫マシン好き。
 とまで書いてあり、買うことにする。
 □欠点を指摘されて一応悩んでみるけど、直す気はさらさらない。
 その通り。
 □自分では大爆笑のネタが人にはウケない。
 頭抱える。

5月6日(火)

 早く目が覚め、朝8時に家を出る。
 打ち合わせを兼ねた昼食会に行こうとして、上半身裸であったことに気づき、急いで会社へ戻るが会社が見つからない。という夢を見たが、昨日も夢のことを書いたので、詳しくは割愛する。
 朝8時に家を出たのは現実。
 外は快晴だった。
 仕事場へは、自宅から片側二車線の広い通り沿いをまっすぐに十五分歩いていくのだが、今日はどういうわけか見慣れた道が、いつもとちがって見えた。どこかの南国の離島にきたような気分。
 天気がいいから、建物の壁が白く弾けて、それが南島っぽく見えるのかと思ったが、どうやらそれだけではないらしい。車が走っていないのだ。ガソリンスタンドから流れる音楽が、心地よく聴こえる。いまだゴールデンウィークであること、朝早くて街が目覚めきっていないこと、そしてガソリンの暫定税率が復活したばかりで、ガソリンスタンドに車がいないことに加えて、雲ひとつない青空の作用が、風景を離島に変えたのである。おかげでなんとなく心騒いで、紀行エッセイを書きたい気持ちが盛り上がった。
 半日かけて書評連載の原稿UP。

5月7日(水)

 連載原稿をふたつ出版社にメールした。これが通れば、今日からしばらく締め切りがない。
 一日中、紀行エッセイの企画について考える。

5月8日(木)

 去年の夏あたりから、体に妙な症状がある。
 夜になると、足が異様に熱くなるのだ。
 わけがわからないので、病院で調べてもらったのだが、MRIだの、心電図だの、血液検査だのいろいろやって、何の異常も発見できなかった。別の医者にも行って調べたけれど、やはり異常なし。そのとき、強いて診断するなら、心因性ということになるでしょうか、と言われ、それならと今回心療内科へ行ってみた。初めての心療内科は緊張するかと思いきや、一度覗いてみたかった気持ちもあり、逆に楽しみであった。
 心療内科の先生は、症状についてだけでなく、私の家族構成から子ども時代の経歴まで根堀り葉掘り聞いてくるので、つい雑誌のインタビューを受けているような気分になり、何か面白いエピソードを披露してサービスしたくなった。そういえば、幼稚園時代に幼馴染だった女の子の弟に、この間偶然仕事で会ったんです。当時その子は一歳半ぐらいですから、もう四十年ぶりですよ。それがまさか、一緒に仕事することになるなんてねえ、驚きましたよ、ワッハッハ。
「何か変な声が聞こえたりすることはありますか」
「ありません」
「ひとつのことにこだわって、いつまでもそればかりやってしまったりとか、そういうことはありますか」
「いえ、とくに」
「家の鍵を閉めたかどうか気になって、何度も家に戻るとか」
「いえ、ありません」
「何か最近ショックだったことは?」
「べつにありません」
「眠れてますか」
「はい」
「何か不安を感じることはありますか」
「飛行機が怖いです」
「電車に乗るのも怖いですか」
「いいえ、飛行機だけです。飛行機おそるべし」
 というような会話のあとに、なんかわかんないけどとりあえず様子見でいいんじゃないの、と軽くあしらわれ、そんなこと言わずに飛行機をなんとかしてほしい一心で、薬を無理やり少しだけ処方してもらった。
 これで心置きなく飛行機に乗れると思うとうれしいが、そういえば飛行機じゃなくて、足の問題で行ったのではなかったか。そっちのほうは、あんまり話題にのぼらなかった。なんでや。

5月9日(金)

 夏の宮古島旅行をインターネットで予約する。
 旅行会社のパックツアーも考えたが、妻がホテルなんかに絶対泊まりたくない、民宿がいいというので、全部個人で予約することにした。
 妻は最近、マンションやホテルのような箱型の建物に強い敵意を抱いており、つまりはマンションに長く住んで苛立っているわけなのだが、私もどちらかというと、バックパッカーの血が騒ぐのか、気のおけない民宿があればそのほうがいいと思っているので、ネットで口コミ情報を調べまくって、宿を選んだ。
 おかげで宿泊費は安くあがったが、飛行機代が家族四人となると恐ろしい額になり、画面の予約ボタンをクリックするのに、意味もなく長い時間を要した。検討すべきは検討したと思ってからも、パソコンの前でさらに眉間にしわを寄せて熟考した。
 というのも、去年苦い経験をしているからだ。
 去年は旅行会社でパックツアーを申し込んだのだが、出発二週間前になって、息子が幼稚園で転び、腕の骨にヒビが入って、結局キャンセルするはめになったのである。今回も、キャンセルすると、飛行機代の半分を取られる。しかも旅割だから予約即50%のキャンセルチャージ。あまりに痛すぎる額ではないか。
 妻は
「宮古島は不吉だから、今年は別の島にしようか」
 などと弱気なことを言ったりもしたが、
「いいや。ここで逃げたら、敵がつけあがる。今年まただめでも、行けるまでひたすら宮古島に挑戦するのだ。何が何でも行ってやる、お前なんか絶対行ってやる、そういう気迫が大切なのだ。そうしないと不幸のワッペンが、われわれ家族に固着してしまうのだ」
 不幸のワッペンは夜になると人知れず赤外線発光し、それを目印に天から次々と不幸が投下されるのである。すでにこの一年間で、ワッペンはかなり馴染んできているはず。今年のうちに剥がしておかなければ、来年にはもっと剥がれにくくなるだろう。
 そうして長い熟考の末、最後は、のちに「勇者のクリック」と呼ばれる人差し指の一撃が、マウスの左側を、荘厳なポッチという音をたててポッチ。

5月10日(土)

 雨。
 息子を連れて図書館へ絵本を借りに行く。
 子どもができてから、もう百冊以上、いやもっと二百冊以上は絵本を借りたが、これまでに借りたなかでもっとも印象に残っているのは、『たなかさんちのだいぼうけん』大島妙子著(あかね書房)だ。
 たなかさんというおばあさんの家が洪水に見舞われる。すると、どういうわけか家から足が生えて、ばしゃばしゃ泳ぎだすという話。
 その設定だけですでにアホだが、絵本だから、まあそのぐらいでは驚かない。問題はそのあとで、この得体の知れん足がすごいパワーを見せて、たなかさん家をふしぎな国へ連れて行くとか、手や頭まで生えてきてしゃべりだすとか、そういう展開になるのかな、と思ったら、海へ出てバシャバシャ泳いでいるうちに、突然つるのだった。
 つるか、足!
 なんという腰砕けな展開。
 アホだ。アホすぎる。そこだけリアリティ出してどうするか。素晴らしいくだらなさに意表を突かれ、嫉妬を覚えた。物書きたるもの、このぐらいアホでなければならぬ。読者の予測を超えてくだらなくなければならぬ。自分なんかまだまだだと思った一冊である。
 

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