5月24日

はしかが流行しています。お気をつけてください。ぼくの大学もとうとう休校になりました(授業中に学校職員が乗り込んできてとても劇的でした)。

本日朝起きるとのどが痛みました。それに咳、鼻水。目も痛い。あ、微熱も……まさか……ただちに病院へ直行です。
待合室のポスターには、高野文子のものと思われるイラストがありました。それをぼーっと見ていると名前を呼ばれました。
幸い、たんなる気管支炎とのことでした。ひと安心して助っ人に入りました。

暑いです。
愛車メタボ(略)号で自転車通勤を始めたTシャツ姿の浜本さんはもとより、みんな薄着であります。見た感じとても健康的なオフィスです。
作業机に座ると、新聞を読みながらぶつぶつとナニゴトカを呟いていた浜田さんが顔を上げました。
「あ、ども、暑いですねえ」
「ほんっとね。裸で寝てるの?」
「はい?」
セクハラ?
と、さすがに唐突だと気づいたのか、薄く笑いながら付け加えました。
「いやほら、ね、若者だからさ」
よくわかりません。
「窓明けてパンツ一丁で寝るじゃない」
好きなシチュエーションなのでしょうか。
「はあ。暑い夜とかはそうですね」
「でしょ? 若者だね」
浜田さんは満足顔で頷きました。

暑いです。みなさんオフィスの熱射病にもお気をつけてください。

5月10日

千駄ヶ谷の駅を出ると、スーツ姿の若者でごった返していました。着ているのはたぶんリクルートスーツです。説明会か何かがあったんでしょうか、道へ出ても向こうからわいわい押し寄せてきます。その流れに逆らって道を急ぎました。

お使いの帰り道、ビルの通りに面したディスプレイに本が置かれていました。
へえ、こんなところに本屋さんがあったんだ?
赤川次郎、内田康夫、西村京太郎。推理小説が多いようです。
ポップらしきものが立ててあり、見ると「この観察力」「見習うべき」「注意深さ」「探偵にも」……ん? 何か変だぞ。
ビルを見上げました。看板がありました。
「××探偵学校」
……おお。本屋じゃなかったんだ。
というか、探偵学校ってなに? どんな授業があるの? 激しく興味をかき立てられます。
探偵になった未来の自分を想像してみました……いいかもしれない。


会社に帰ると、いただきもののアイスがあるとのことです。わあい。
「そうだ」
ビール瓶の王冠を口でねじ開ける浜田さんが言いました。
「ついでに賞味期限が切れちゃったアイスを捨てといてね」
丈夫な浜田さんなら食べても大丈夫だと思いましたが黙っていました。

4月5日 本屋大賞

というわけで今回もぼくと天野さんはアンベール(大賞発表の瞬間に受賞作パネルからベールをはぐ係)を任命されました。光栄すぎて手が震えてきます。今朝飲んできた牛乳が……
二度目だから大丈夫でしょう? というアナタ。
難易度が上がったのです。
以前はパネルからベールを全面に落とすだけだったのが(いま考えるとなんて簡単!)、「やっぱりポップは立体的に展開したい!」という意見が出て、今回はパネルの前にポップと受賞本を載せた机を置き、その上にふんわりとベールを掛けるというとてもデンジャラスな装いになっているのであります。
「ポップを落としたら大変だなあ」
「本もあやういところにあるぞお」
舞台下で全体管理氏と実行委員会理事長氏が普段は見られぬほど息ぴったりでぼくらを責めてきます。ヒマなのでしょうか? サドなのでしょうか?
さらに、パネルを見てみると、あれれ、前より高くなってる? あわわわ。タカシくん会わない間に随分大きくなっちゃったわねえ現象発生です! チーフ! チーフ!
「大丈夫です、ここに足場を置いてもらいますから」
はい。手は充分に届きましたが……高い! 今度は自分の位置が!
「落ちるなよー」
「落とすなよー」
舞台下から楽しそうな声がします。
通しのリハーサルが始まりました。開場まで時間がありません。素早く進行していきます。
ドキドキドキドキ。
「大賞受賞作は……佐藤多佳子さんの『一瞬の風になれ』です!」
バサァッ。
コテン。
あああああああ。
「もう一回アンベールだけお願いします」
「……『一瞬の風になれ』です!」
バサァッ。
コテン。
あわわわわわわ。
「すみません、もう一回」
「……です!」
バッ、クイッ、ズズ。
あれ? あれ?
「あ、うしろに引っかかってますよ」
舞台下にはだれもいなくなっていました。

という試行錯誤の末に今回の本屋大賞ステージ補助のお仕事を終えたのでした。発表会が始まってからのことは全部がキラキラしていてよく思い出せません。
佐藤多佳子さんとの写真撮影のときの書店員さんたちの賑やかなさまと、撤収中にみんなでいっしょに写真を撮ったときに伝わってきた達成感と、打ち上げで飲んだ普段は好きじゃないビールが思いのほかおいしかったことはよく覚えています。

3月30日

本屋大賞授賞式のお客様用領収書を作りました。
「本池さん、はんこが終わったんでぼくたちも手書きの部分手伝いましょうか」
「うん。ここに試し書きしてみて」
「はい、なになに……できました」
本池さんは苦虫をかみつぶしたような顔をしました。大塚くんが続きます。
「うん……こっちのほうがまだマシかな」
「鉄平さんのはなんか、ポップアートって感じですね」
「いやあ、それほどでも」
「ほめてないって」
「本池さんのだってここがこう……」
「そうですねえ」
「ひどいっ。大塚くんだって……」
そこに浜田さんが乱入。
「こころを込めて書けばいいのよ。わかった?」
はー、おっしゃる通り。

「こんにちわー、失礼します」
声のした方に振り向くと、おわっ、テレビカメラが目に入りました。本屋大賞の取材に来た方々です。浜本さんが席を立って二階に案内をしております。
「あ、お茶をお出ししなきゃ」
ぼくがそういったものの、ふたりは俯いたままです。椅子は不自然なほど動きません。しかたなく立ち上がり台所へ。急須にお湯をそそぎながら呟きました。
「あのね、ぼく、お茶出し苦手なんですよ」
「……はあ」
おそるおそる返事をする大塚くん。
「手がね、震えるんですよ。カタカタカタカタって。だからゆーっくりお出しするでしょう? するとね、みんながね、こっちをじーっと見守ってる気配がね」
「緊張するの?」と本池さん。
「ええ、それに……不器用ですから」
二人はぼくの書き途中の領収書を見つめました。
「ぼくがお出ししましょう」
「あたしが入れる」
助っ人のココロは助け合いの精神です。

カメラが一階に降りてくると俄然緊張感が増します。浜本さんがデスクに着き、その前にカメラが設置されました。ちらっと首を回すと目が合ってしまいました。
フクザツな表情でした。ナンカイな笑顔でした。カレーパンマンのような波状の口元に、うるんだ目、不思議に落ち着いた風情で椅子に座っていました。浜本さんのこんな様子を初めて見ました。
小田和正は歌います。
「ことばに できない」
浜本さんは無言でこちらを見ていました。ぼくはたえきれず目を逸らしてしまいました。

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