風邪をひくと無性に食べたくなるもの。
たまご味噌、については、以前に書いたのだけど、実は、もう一つ、あるのだ。もう一つ、というよりは、どちらかといえば、そっちの方が、「風邪の時食べたい度」は強い。
それは、ナマコ、である。
えっ!?と思う人が多いかもしれない。何でナマコ? しかも風邪っぴきの時に!?
今では私自身も、そう思うもの。
でも、食べたくなるんである。もう、これは理屈抜きで。
私にとって、風邪といえばナマコ、ナマコといえば風邪、なんである。
これは私の実家だけの食習慣なのか、それとも津軽という地方の食習慣なのか、そこのところは良く分からないのだけど、とにかく、青森の私の実家では、風邪をひいたらナマコを食べる、というのが定番だったんである。
その定番の提唱者は祖母だった。
「ナマコだば噛まなくても、お腹で溶げるはんでの」、というのが祖母の主張(なのか?)だった。
そりゃ、溶けるだろうけど、さ。
とはいえ、いくらナマコが祖母の好物だったとはいえ、そういうことを祖母が独自で思いついたとは思えない。
となるとやっぱり、「風邪にはナマコ」という発想は、津軽に言い伝えられた食習慣だったのかなぁ。祖母は、根っからの津軽衆だったからなぁ。
ちなみに、私の父は津軽の出ではないのに加え、いわゆる「磯くさいもの」には、一切箸を出さない人なので、父がナマコを食べる姿、は見たことがない。
風邪っぴきであろうとなかろうと、我が家でナマコを食べるのは、私と祖母だけだった。
上京するまで、この「風邪にはナマコ」という組合せに、私は何の疑問も持っていなかった。
東京の魚屋さんで生のナマコを見かけないのは、単に東京ではナマコが採れないからだろう、ぐらいにしか思っていなかった。
「風邪にはナマコ」が変だ、と指摘されたのは、友人たちと飲みに行った居酒屋にナマコがあって、で、それを頼んで食べた時、だ。
そもそも、私がナマコをオーダーした時点で、「ナマコぉ?」という声があがったくらいで、でもその時は、あぁ、やっぱり東京じゃナマコは馴染みが薄いんだなぁ、と思っただけだった。
運ばれて来たナマコは、キュウリと一緒に三杯酢で和えられていて、肝心のナマコは、スライサーにかけたのか? と思うほど、薄くてぺらぺらしていた。想像していたものとは違ったけれど(私はてっきり、小鉢にナマコだけが山盛りで出て来ると思っていたのだ)、それだって、ま、所変われば品変わるだしな、ぐらいで済ませていた。
ナマコがある種、特殊な食べ物だなんて、思ってもいなかったんである。
ナマコって食べたことがない、という友人に、「じゃ、ひと口あげる」と寛容な態度で接した私だが、どうも友人の口には合わなかったようだった。
というか、そのナマコは、私の口にも合わなかったのだけど。
何ていうか、ナマコ好きなら分かると思うのだけど、「ナマコが鼻をたらしてる」(ナマコの鮮度が落ちてる状態を、青森ではそう言うんである)のだ。
あの、ナマコ独特の歯ごたえが、ただでさえ薄くスライスされてるせいで半分がた失われてるのに、鼻までたらしてるナマコ……。
これが青森なら、ちゃぶ台ばぁ~ん、だよ、と思いつつも、久しぶりに食べるナマコだし、ま、いっか、と食べてる時に、ふ、と口をついて出たのが、
「やっぱりナマコは、風邪の時の食べもんだよね」
その時、私の周りに、一瞬妙な「間?ができた。
「…………。ナマコ、って、これ、だよね」と友人A。
「うん、そうだよ。あ、でもこれはね、青森で食べてたのとはちょっと違うなぁ。もっと厚く切って、で、キュウリとかと和えたりしないで、ナマコだけで酢醤油で食べるんだけどね」
「………………」
「ん? 何? どうかした?」
「風邪の時に、ナマコを食べるわけ?」
「そうだよ。風邪にはナマコ。さっぱりしてるし、消化はいいし」
「うっそ!」「えぇ~っ!?」「何、それ!?」友人A、B、Cが口々に言った。
「え? 何で? 食べない、ナマコ?」
「食べないっ!」3人が同時に答えた。
「じゃぁ、風邪の時って、何食べるわけ?」
「風邪にはおかゆでしょ」と友人A。
「具合悪い時は食欲なんかない」と友人B。
「うーん、プリンとか、かなぁ」と友人C。
「ナマコ、は?」
「食・べ・な・い!」3人がまた揃って言った。
そっか、ナマコ、食べないのか……、って、え? じゃ、何? 「風邪にはナマコ」って変なの?
「変じゃないと思うけど、変わってると思うよ」
変なんじゃん。
「大体さ、東京じゃナマコって、普通の魚屋さんじゃ手に入らないし、ナマコ好きな人のほうが、珍しいんじゃないかなぁ」
そ、そうなの……。
食べ物に関するコペルニクス的展開というのは、何度か体験していたが、この時はまさにそれだった。
それ以来、「風邪にはナマコ」というのは、我が家、もしくは津軽地方独特の(ちょっと変わった)食習慣である、という認識を私も持つにいたったのだが、認識と生理、は別物、である。
風邪に限らず、熱が出た時は、「内熱」があったりした時は、今でも無性にナマコが食べたくなる。
出産直後、何故か酢の物が食べたくてしょうがなかった時も、やっぱりナマコが食べたかったし、髄膜炎で、寝返りがうてないくらい頭痛がひどくて、吐き気に襲われていた時も、病院のベッドの上で、ナマコが食べたいっ! と思っていた。
今でも、実家に帰ると、ナマコの食い溜めをしてしまう。
市場に出て、量り売りしてもらったナマコを自分でさばく(さばく、ってほどのことではないです)。「口」をとって、腹を開いてワタをとって、砂を洗い流せば、それでOK。
ワタのところのオレンジ色の「コノワタ」を、生でちゅるっ、と飲み込むのだけど、これが、もう!
そういうば、祖母がナマコをさばいている時に、そばにいると、この「コノワタ」を取り出してくれて、口に入れてくれたっけ。
それにしても、どうして「風邪にはナマコ」だったんだろう。祖母が逝ってしまった今では、知りようはないけれど、風邪をひくたびに、ナマコを食べるたびに、「コノワタ」を口に入れてくれた祖母の手を思い出してしまう。
食いしん坊レシピ その13 「茄子ペースト」
1 茄子はヘタをとって、ピーラーで皮を剥く
2 茄子を蒸す(蒸し過ぎに注意)
3 蒸しあがった茄子を、包丁で叩く
4 叩いた茄子をボウルに入れ、ニンニクのすりおろしと塩とオリーヴオイルで和えれば出来上がり。オリーヴオイルはたっぷり使うこと。熱々でも美味しいけれど、冷蔵庫で冷やすと、更に美味しくなります。バゲットやクラッカーにのせて、どうぞ!
*茄子は焼き茄子でもOKですが、できれば蒸して。茄子とニンニクの割合は、茄子6本に対してニンニク二かけくらい、が目安ですが、お好みで加減してください。オリーヴオイルが、できればエキストラヴァージンを! 風味が違います。