ものを食べる時に、美味しそうに食べる人、が好きだ。
真剣に食べる人、も好きだなぁ。いつもはおしゃべりなのに、美味しいものを前にすると、おしゃべりするのを忘れて、目の前の食べ物に集中している人なんか、もう、それだけで惚れ惚れとしてしまう。
とりたてて美味しいもの、じゃなくってもいい。
例えばハンバーガーであろうと、ラーメンであろうと、カレーライスであろうと、とにかく、思わずこっちまでつられて食べたくなるような、そんな食べっぷりの人がいるけれど、そういう人と一緒にご飯を食べるのは、本当に気持がいい。
自分の夫に対しての愛が冷めてしまうと、夫が食卓でたてる音でさえ、いちいち勘にさわる、という話を何かで読んだことがある。
あれは何だったっけかなぁ。
おしんこを噛む音さえ嫌だ、みたいなことが書かれてあったように思う。
おしんこを噛む音、ではないけれど、私も似たような体験をしたことが、何度か、ある。
好きでつき合っている頃は気にならなかったことなのに、気持が離れ始めると、いちいち目につくし、それが鼻にもつくのだ。
私の場合、それは、相手の男の食事の仕方、である。
あれ? この人、こんなにくちゃくちゃと咀嚼する人だったっけ?
こんなに、ちまちま、もぐもぐしている人だったっけ?
男なら、大きな口で、がばっといけ、がばっと!
んなもん、ひと口で食えよっ!
ワタごと食えないなら、サンマなんて頼むなっ!
それが進むと、食べ物のオーダーの仕方まで、勘にさわるようになる。
料理名だけ言うんじゃなくて「~をください」とか、「~をお願いします」でしょ!
個数は指で、じゃなくって、口で言え、口で!
店を出る時の態度まで、ひっかかる。
何で「ごちそうさまでした」が言えんのだっ!
もちろん、こんなことをいちいち口に出したりはしない。
でもその分、胸の奥で、ふつふつふつ、と不満が煮立って来る。
ふつふつふつ、が、ぐらぐらぐら、と沸騰しそうになる頃には、無言のうちに、こちらの殺気だったものが相手にも伝わっているいので、何かもう、お互いに殺伐とした食事になる。
殺伐とした相手は、ただでさえ勘にさわる食べ方なのに、そこに「投げやり」が加わるので、もう、目も当てられない。
焼き鳥屋さんになんか入ろうものなら、横並びに座っているにもかかわらず、一人どうしの客がたまたま隣り合った、みたいな感じ。
もうここまできたら、だめ、である。
食事の仕方が嫌いになって別れた相手とは、別れた後で、友達にさえなれなかった。
向こうにしても、友達でいようなんて、思わなかっただろうけど。
知人に、女性の外見の美醜には全くこだわらない男がいる。
その彼の、女性に対する唯一の基準は、「一緒に飯さえ食えりゃいい」だ。
もう二十年近く前に聞いた言葉なのだけど、これはかなりインパクトがあった。
「そんなの、誰とだって飯くらい食えるでしょ」と言うと、彼は真面目な顔で言った。
「いや、いるんだよ、ごくたまに、だけど。何ていうか、もう、こいつとは面と向かって一緒には飯を食いたくないなぁ、って感じの女が」
彼は美醜にこだわる男ではない。ならば、何を基準に、飯が食えるかどうか判断するんだ?
「雰囲気、かなぁ。何か、どよんとした感じ。それと、どことなく不潔な感じがするのもだめだなぁ」
彼のこの言葉を聞いた時、理屈じゃなくて、私は直観で理解できた。
その時は、直観でしか分からなかったけど、後になって、私なりに自分の言葉に置き換えるなら、彼の言う「不潔な感じ」というのは、身なりとかそういうことではなくて、何ていうんだろう、食べることへの気持の在り方、みたいなことだと思う。
食べることに対して、心の背骨が真直ぐに伸びているかどうか。
どれだけ顔が綺麗でも、どれだけ着飾っても、食べることに対しての品性がなければ、不潔な感じになってしまうのだ。
食べることに対する品性、なんて大げさに書いてしまったけれど、要は、美味しく食べようとする意欲、楽しんで食べようとする気持の持ち方、みたいなものだ、と私は思う。
これは、男女問わずのことだけど、食べることに心卑しい人、というのはいるのだ。
食いしん坊とか、食い意地が張っている、というのではない。
例えば、会費制のパーティで、何が何でも元をとろうと、味はそっちのけで、意地になって食べる人、とでも言ったら分かりやすい例になるかなぁ。まぁ、そんな人はあまりいそうにないけれど。
例えば、自分のグルメぶりを「披露」しなければ、「気が済まない」人。
いや、美味しいもの食べた自慢、というのは、構わないのだ。そういう自慢は、私は大歓迎だ。逆に、微に入り細に入り、詳しく聞きたいくらい。あ~、もうっ、私も食べたいなぁ~、と身もだえするのも楽しいし。
そうじゃなくって、聞いている相手をげんなりさせてしまうような人、がいるのだ。
それは「自慢」じゃなくって、「披露」だからだ、と私は思っている。それも、勿体つけちゃって、ちらっ、ちらっ、と「披露」するような人。
そういう人は、食べることに対して不潔だ、と私は思っている。
ダンナと喧嘩した日の翌朝。
どんだけ派手に喧嘩しても、朝はちゃんとやって来て、二人とも喧嘩の尻尾みたいなのを引きずりながら、朝ご飯を食べるために向かい合う。
ダンナの食べ方が勘にさわったらどうしよう、と思う私がいて、さわったらさわったでその時だ、と思っている私もいる。
ぼおっ、としている私の前に「お代わり」とダンナの手が伸びて来る。
二杯目のご飯を差し出す頃には、喧嘩の尻尾はどこかに消えている。
食いしん坊レシピ その12 「巻き巻きイワシ」
1 焼き海苔は、一枚を縦に半分に切り、さらにそれを四等分する
2 大葉はざっと洗って水を切っておく
3 長ネギの白い部分を白髪ネギにする
4 チョコチュジャンを作る(コチュジャン大さじ2、味噌、砂糖大さじ1、すりごま小さじ1、醤油、おろしニンニク小さじ半分を混ぜ合わせ、全体がとろりとなるくらいのお酢を加える。お酢の量は加減を見て)
5 イワシの刺身は半身(大きい場合は四半身)に切り分ける
6 海苔の上に、大葉、白髪ネギ、イワシ、チョコチュジャンを重ねて、くるりと巻いて、召し上がれ!
*イワシの代わりにアジでもOK。さっぱりとして、夏向き。ビールにもご飯にも合います。焼き海苔を韓国海苔にしても美味しい!