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第2回

 風邪っぴきになると、今でも「たまご味噌」が食べたくなる。
「たまご味噌」とは何か?
 いや、もう、ごくごく簡単、シンプル極まりない食べ物、なんですが。
 あまりにも簡単、かつ、我が家ではポピュラーな食べ物だったので、私的には、目玉焼きや玉子焼きと同じような感覚だったのだけど、どうもそれが違う、と知ったのは大学生の時だった。
 そもそもは、目玉焼きには何をつけて食べるか、といった話題だったような気がする。
 塩コショウ派あり、断然お醤油派あり、ソース派あり(ちなみに、ソース派、は私です)、ケチャップ派あり、で、まぁ、結局は、「目玉焼きってのは、何をつけて食べても美味しい」という結論だったと思うのだけど。
 学食での話題だったんだっけかなぁ。それともMちゃんちで皆で飲んで泊まった翌朝の、朝ご飯の時の話題だったかもしれない。大学生の会話らしからぬ話題ですが(ま、今から思えば、ね)。
 そこから発展して、じゃ、卵料理では、何が一番好きか? という話になったのだった。
 やっぱり玉子焼きかなぁ、とか、目玉焼きだよ、とか、そりゃ卵かけご飯じゃない? え? 卵かけご飯って卵料理って言うか? とか、じゃぁ、茶碗蒸し!とか、そういう話で盛り上がったのだ。
 私は何かなぁ? とあれこれ考え、目玉焼きの、あの黄身のくちゅっとろっとした食感を思い浮かべ、玉子焼きの懐かしい甘さを思い浮かべ、茶碗蒸しのあつあつのお出しの香りを思い浮かべたりしていたのだが、私にとっては、やっぱりこれっきゃない! というか、どうしてみんなコレを忘れてますか! という意気込みで「私はたまご味噌!」と宣言したのだった。
 あ、そうそう、それ! とか、やだ、大事なの忘れてた! とか、当然そういう反応が返ってくる、と思っていた。
 が。しかし。
 予想に反して、というか、私からすればコペ転的といってもいい、リアクションが返って来たのである。
「えぇ~っ、何、それ?」
 何、それ? って、「たまご味噌」は「たまご味噌」じゃん、あの、卵と味噌で作る。
 卵の味噌漬けか何か? ちっが~うぅっ!
 味噌煮にした卵? ちっが~うぅっ!
 黄身と味噌を混ぜるの? ち、ち、ちっが~~うぅぅっ!!
 ここに来て、私は、「たまご味噌」なるものが、全国的に認知された食べ物ではない、ということを初めて知ったんである。
 びっくりした。
 私の育った青森市では、どこの家庭でも普通に食べてた料理である。「たまご味噌」と聞いて、その姿(か?)が思い浮かばない青森市民はいないはずである。 
 ということは。
 どっひゃぁ~ん!「たまご味噌」って、「郷土料理」だったのかぁぁ。
 たまげた。
「たまご味噌」が「じゃっぱ汁」とか「けの汁」とか「鱈のとも和え」みたいな「郷土料理」だったとは!
 気を取り直して、押忍!、青森市民代表ヨシダノブコ「たまご味噌」説明させていただきますっ! と、鼻息も荒く、「たまご味噌」がどういう食べ物か、を語ったのだが、どうも、友人たちにはピンとこなかったようだった。
 そりゃそうだ。「出来たてはふわふわっとしてて、でも時間がたつとぺしゃんこになるんだけど。味は、味噌のしょっぱさと卵の甘さがからまって」なんて説明じゃ、誰も分からないって。というか、「絵」が浮かばないってば。
 後に、私の家に友人が泊まりに来た時に、実際に「たまご味噌」を食べてもらって、「あ、これがノブコの言ってたやつかぁ。確かに、ふわふわしてるねぇ。へぇ~っ、これかぁ~」と、ようやくその実体を知ってもらうことができたのだった。
 で、「たまご味噌」である。
 大学生時代を経て、語彙も食体験も増えた今なら、言葉だけで「たまご味噌」を語ることができるぞ!「たまご味噌」というのはですね、要は「味噌味の卵のスフレ」に限りなく近いもの、を想像していただくと、かなり近い。
 スフレと違うのは、メレンゲを使うんじゃなくって、黄身と白身を混ぜ合わせて使うので、スフレよりもしっかりしっとりと固まる感じ。スフレとプリンの中間といった感じかな。
 出来たてのふわふわをいただく、というのは、スフレそのまんま。
 ただし、「たまご味噌」は、時間がたっても平気。
 朝作って、余って冷たくなった「たまご味噌」を小皿にとっておいて、夜、あつあつのご飯にのせて食べてもグゥ! である。

 小学校に上がるまで病弱だった私は、しょっちゅう風邪をひいては熱を出し寝込んでいた。そんな時に、祖母が作ってくれたのが、この「たまご味噌」とお粥のセットだ。
 塩気も何もついてない白粥、というのは、子供の味覚にすれば「糊みたい」なもので、とてもそれだけでは食べられたものではない。
 かといって、扁桃腺(高熱が出るのは大抵これが原因だった)を腫らした喉には、梅干しはしみて食べられない。
 そこで登場するのが、「たまご味噌」なので。味噌味もついてるし、何より卵を使っていて、栄養もある。ふわふわと柔らかくて、口当たりもいい。気がつくと、「たまご味噌」をおかずに、お茶碗一杯分のお粥を平らげているのである。
 長じてからも、食欲がない時や、何かもう一品欲しい時の、朝食のおかずとして、よく我が家の食卓にのった。
 ものすごく簡単な一品なのに、今、自分で作ろうと思っても、なかなか祖母のように作れない。
 料理、というのは、どんな料理にも「感どころ」というのがあって、その「感どころ」さえつかんでしまえばこっちのもの、というか、失敗することはない。
「たまご味噌」に関しては、私はその「感どころ」はつかんでいる、と思う。祖母が実際に作るのを、数えきれないほど見てきたのだから。
 にもかかわらず、私は未だに「たまご味噌」に関してはチャレンジャーのままだ。
 祖母の味には、まだまだ遠い。

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