もうすぐ、クリスマスだ。
かつて、私が一人で迎えるクリスマスイヴをいかに苦痛に思っていたか、ということは以前書いたので、今回は、別の話。
クリスマスに限ったことじゃないけど、プレゼントについて、だ。
私は、プレゼントというのが、好きだ。
もらうのも嬉しいけど、それよりも、プレゼントを贈るほうが好きなのだ。
男に贈るのも、女に贈るのも、好きなんだけど、でも本当に好きなのは、実際にプレゼントすることより、その人のことを思い浮かべて、何を贈ろうか、あれこれ考えることのほうだ。
あの人にはこういう色が似合うよなぁ、とか、いつも落ち着いた色味のものが多いから、小物くらいは派手な色味のものでどうかなぁ、とか。
プレゼント、なんて、そんな改まったことじゃなくても、何気にのぞいたお店で、あ、このデザイン、あの人が好きそうだなぁ、とか、これ、私には似合わないけど、○○ちゃんには似合いそう、とか、そんなことを思うのが楽しいのだ。
実際に贈るか贈らないか、に関わらず、そんなことをぽちぽち思うのが面白いのだ。
親しい友人だったら、次に会った時、あ、そういえば、こないだ「ZUCCA」で見かけたTシャツ、○○ちゃんの好みっぽかったよ、なんて。
ま、私の友人なぞ、そんなこと言ったら、「あ、そ。じゃ、買っといてくれれば良かったのに。代金そっち持ちで」なんて、しゃらんと言ったりするからなぁ。買わない、って。
中には、「あ、あれね。ふふふ、もう買っちゃったもんねっ」なんていうこともあったりして。それはそれでまた、楽しかったりする。
その昔、彼女に振られてヘコんでる男友達と飲んでいて、喧嘩になったことがある。喧嘩というか、私が一方的に怒ったんですが。
まぁね、誰だって失恋は辛い。
自分を振った相手を恨みもするわさ。
だから、相手の仕打ちを嘆くのはいいよ。
こっちだって、失恋したこと知ってて、それで飲みに誘ったんだから。
ヘコんでんだろうから、いっちょ景気でもつけるべ、なんて思ってるわけだから。
なんで、最初のうちは、ふんふん、そうかそうか、なんて聞いてたんである。
ま、色々あるし、辛いのも当たり前だしさ。取りあえず、今日は飲も飲も、なんてやってたんである。
そのうちに、彼が、いかに彼女を好きだったか、その胸のうちを縷々語り始めたのだけど、それを聞いているうちに、何か、段々腹が立って来た。
いかに好きだったか、のディテイルとして、彼女に贈ったプレゼントのことを語りだしてからだ。
彼女が好きだった芝居のチケットから始まって、香水やら口紅といった小物関係から、果てはお洋服、指輪、バッグと、彼が彼女に贈ったプレゼントの数々が、長いリストとなって彼の口から出て来るに及び、何だかすごく不愉快な気分になっていったんである。
(しかも、その品々を入手するまでの、彼の苦労話がひとくさりついてんの。バブルな時代だったからね)
止どめは、某フランスのブランドの指輪だった。
で、その後に続いた彼のひと言で、私の不愉快指数は限界にまで高まってしまったんである。
「いったいオレが、いくら金つかったって思ってるんだよ」
このひと言に、私はとうとう我慢できなくなってしまったんである。
そりゃ、それは彼の本音かもしれない。
でもさ、それを言ったら終りじゃんか。
そんなこと思うだけでも嫌だけど、百歩譲って、心で思うだけなら、まだいいよ。
でも、それはやっぱり男として、というか、人間として、言っちゃいけないんじゃないか?
「そんなの、私の知ったこっちゃない」
私の語気の強さに、彼は一瞬たじろいだ。
そのたじろいだ彼に向かって、私は一気にまくし立てていた。
「あんたねぇ、それ、好きで贈ってたんでしょ。だったらそれでいいじゃんか。何をそんなこと、ちまちまちまちま言ってんだよ。それとも、何か? オレと別れたなら、今まで贈ったもの、返してくれとでも言いたいわけ? じゃ、そう言えばいいじゃんか。そんで、返してもらいなさいよ。それって最低だけど、少なくとも、第三者に、『オレがいくら金つかったと思う?』なんてグチられるくらいなら、その彼女だって、喜んで返してくれると思うよ」
「な、なにも、お前がそんなに怒ることないだろ」
「怒るよ。もう、情けなくて情けなくて、あんたと酒飲もうと思った自分が哀しいよ。結局ね、あんたがその彼女に贈ってたのって、自分ではプレゼントのつもりだったかもしんないけど、それはね、プレゼントじゃなくて、下心じゃんか。それって、卑しいよ。自分を振った彼女を恨む前に、その自分の下心を恥ずかしく思えよ」
立ち上がるなり、財布から5千円札を取り出して、テーブルに置いた。
「そういう嫌な話聞いてると、酒がまずくなるから、帰る」
ちょっと待てよ、何お前が興奮してんだよ、落ちつけよ、という彼を残して、とっとと店を出た。
昔の私は血の気が多かったんである。
駅までの道で、あ、ボトル入れたばっかりだったのに、と思い出して、「何だ、あたしも卑しいなぁ」と思った。
どうも、こと男女間のプレゼントに関しては、女の方がさっぱりしている、と思うのは私だけかなぁ。
少なくとも、私の周りには、例えその恋が終わったとしても、その後で、彼に贈ったプレゼントに使った金がどうのこうの言う女はいない。あ、男にもいないか。あの時の彼ぐらいだな。で、あの時の彼とは、別にそのことが引き金になったわけじゃないけど、その後、疎遠になっちゃったし。
林真理子のエッセイで、彼女がまだ無名だったころ、男へ羽布団を贈ろうとした、というのを読んだ記憶がある。
自分は古色蒼然とした綿布団に寝ていても、惚れた男にはレノマの羽根布団を贈りたい、みたいなことが書かれてあって、あぁ、これ、すごく分かるなぁ、なんて思ったのだ。
私も、自分の普段使いは、デュラレックスという、落としてもめったなことじゃ割れないような、頑丈でしかも安いグラスを使っているのに、こと、つき合っていた彼へのプレゼントに、バカラのグラスを贈ったことがあったんである。
彼がそのバカラのグラスでお酒を飲んでるところを想像すると、それだけで、何か幸せな気分になったりしたのだ。
その彼とはずっと前に別れたのだけど、彼のごつい手に、重量感のあるそのグラスは、とても良く似合っていて、あぁ、贈って良かったなぁ、と思ったことを覚えている。