かれこれ二十年近いつきあい(げっ、もうそんなになるのか)になる。
これがまた、女にだらしないやつで、彼女がいるにもかかわらず、あっちにふらふら、こっちにふらふらしているやつなのである。
「何で、落ち着かないかねぇ。ちゃんと待っててくれる人がいるのにさ」
「うーん、ダメなんだよなぁ。何か、もっといい女がいるかもしれない、とか思っちゃうんだよね」
「それって、理想の女を見つけたいとか、そういうことなわけ?」
「そういうんじゃなくて……。何か、俺、断れないんだよ」
「で、据え膳食っちゃうわけだ」
うん、とUちゃんはうなずいた。
「で、食っちゃった後はどうするのよ」
「どうする、って、いい娘だなって思えばつきあうし、そうじゃない時もある」
「つきあう、って、そんな、それじゃNちゃんはどうなんのよ」
私は、そんなふらふらUちゃんをずーっと許して、待っている彼女の名を挙げた。
「Uちゃんさ、そんなことしてて、もしNちゃんに愛想尽かされちゃったら、どうすんのよ。Uちゃん、すんごく落ち込むと思うよ。ずるいよ」
別に、私は殊更にNちゃんの味方とか、そういうのじゃなかったのだけど、Uちゃんのだらしない下半身には、女としてちょっと腹が立ったりしたのだった。けれど、ずるい! と責める私の前で、「そうだよね。ずるいよね」と、うなだれて日本酒をぐびっと飲むUちゃんを見ていると、それ以上は言えないのだった。まぁね、Uちゃんだって分かってるんだよな。分かってるんなら、そんなことしなきゃいいのに、それでも、ついふらふらしちゃう、それがUちゃんなんだよな。男の性、ってやつか。違うか。ま、いいや。
「すんません、日本酒もう一本ください」と頼む私の前で、Uちゃんは煮込みを追加した。
ある時、例のごとく仲間うちでさんざん飲んだ後、終電近い電車に、私とUちゃんは乗っていた。で、これまた例のごとく「何か、飲み足りないねぇ」ということなり、私の最寄り駅で飲み足すことにした。
朝、2時までやっている居酒屋に入って、私とUちゃんはだらだらと飲んでいた。そのうちぽつんとUちゃんが言った。
「俺、まいっちゃったよ」
ん? 何、何、どうしたの?
Uちゃんの話はこうだ。例のごとく、ついふらふらとしてしまった相手が、Uちゃんに本気になってしまったというのだ。
「ありゃー」と私。
「ありゃー、だろ」とUちゃん。
「あんたが、ありゃーってことはないでしょ。自分が悪いんだから」
「だよねぇ」
目の前の酒を、私とUちゃんは黙々と飲んだ。
「家の前で待ってるんだよなー」
「ふーん」
「ふーん、って、夜中の2時とかだぞ」
「で、どうするわけ」
「夜中の2時に帰すわけにいかないじゃんか」
「そりゃ、ま、そうだ。で?」
「で、って、部屋に入れて、それからは、まぁ、その…………」
「何、それ?」
「だよねぇ」
だから、最近は家に帰ってないんだ、とUちゃんは言った。
「じゃぁ、どうしてんの?」
「Nちゃんち」
「…………」
Uちゃんに本気になってしまった彼女が痛々しかった。もう、こんな男に本気になっちゃだめだよー。でも、好きになっちゃったんだよね。辛いよね。相手の心が自分にないと知りつつも、それでも諦められなくて、会ってくれないことも分かってるから、でもそれでも会いたくて、家の前で待つことしかできなくて。
「で、どうするつもりなのよ?」
「いや、このまましばらく家に帰らないでいたら、それで向こうも諦めてくれるかなぁ、って」
「最低じゃん、それって」
「だよねぇ」
結局、看板まで飲んで、Uちゃんは「じゃ、俺は」と、Nちゃんちへと帰って行った。
それからしばらくして、Uちゃんと飲んだ時、「ねぇ、あの時の彼女、どうなった?」と聞いてみた。
いつまでも逃げててもしょうがない、と思ったUちゃんは、思いきってその彼女と話し合った、という。それは、つまり、自分には彼女がいて、その彼女とは別れるつもりはなく……、というようなことだったらしい。
「修羅場になんなかった?」
「Uちゃん刺してあたしも死ぬ、って言われた」
「ひえーっ」
その時、Uちゃんは思ったそうだ。あぁ、彼女をここまで壊しちゃったのは、自分なんだ、って。だったら刺されてもしょうがないよなぁ、って。だから、言ったのだ。「それで気がすむならいいよ」と。彼女はわぁーっと泣き出して、それからずいぶん長い間泣いてたそうだ。その日を境に、彼女はUちゃんの前から去って行った。
「まぁ、無事で何より」と、つい私はごまかしてしまったのだけど、こういうとこがUちゃんの良さなんだよなぁ、と私は内心しみじみしていた。Uちゃん、いい男じゃん。
Uちゃんと刺し違えて、とまで思い詰めていた彼女は、相当にテンパっていたと思う。そりゃそうだよね。薄々、他に女がいるんだな、って思って、こりゃダメだ、と思いつつも、それでも好きで、諦められなくて、会いたくて、会いたくて、気持ちの中にどんどんどろどろしたものが溜まっていってしまって、自分でもどうしようもなくて。どこにも、心の持って行き場ばがなかったんだろうな、って思う。どんだけ辛かったろうな、って思う。で、Uちゃんは、その彼女の辛さが分かるUちゃんだったんだよね。
だから、Uちゃんは、本気の本気で、刺されてもいい、と思ったんだと思う。その時、Uちゃんは真正面で彼女を受け止めたんだ。だから、彼女は、諦めがついたんだと思う。
Uちゃんに、面と向かって言うのはしゃくだったけど、酔っ払ってたし、ま、いっか、と思って言った。
「Uちゃんって、いいやつじゃん」
「何がだよ」と言いながら、Uちゃんはおしんこをぽりぽりとかじった。