今、東京で、ヒロタのシュークリームってのはありますか? と思って調べたら、東京駅構内にあった。三鷹駅前にも国分寺の駅ビルにもある。けっこうあるじゃないか。でも昔にくらべてヒロタって減ったんではないだろうか。大阪にはまだそこここにあり、ヒロタを見ると、道頓堀のグリコ看板より、食い倒れのタイコ人形より、「大阪に帰ってきた」という気になる。ヒロタが大阪が本場だなんて、東京に住んでいたら知らなかった。銘菓ひよこが九州産出のモノだというのも、東京に住んでいたら知らなかった。東京に住んでると、東京で売ってるもの(で地方色を打ち出していないもの)は、なんでも東京のモノだと思い込んでしまう。
大阪のヒロタについて気になっていることがある。大阪のヒロタは二種類ある。たぶん「サクマのドロップ(緑缶)」と「サクマ式ドロップ(赤缶)」の違いのようなものだと思う。両方とも「4コ入りシュークリームの箱」を売るのは同じだが、ヒロタAはクリームが基本的にカスタード一本だが、季節のフレーバーカスタードクリームで特色を出しており、ヒロタBは季節フレーバーに色目を使うことなく、カスタード&生クリームをいちどにシュークリームにつめるという作戦で攻めていた。どっちもうまいけど、私はヒロタAの「伊予柑シュークリーム」が好きで好きでしょうがなかった。ほんとに美味しかったんですよ。しかしさいきん大阪でヒロタAをあんまり見かけないのである。伊予柑シュークリーム、大好物だったんだが……。どこいっちゃったんでしょうか。
しかし本日は東京のヒロタの話題です。私が東京の高校生の頃、夏の差し入れといえば「ヒロタのシューアイス」だった。あの水色のタテに細長い手提げ箱を持って歩いている人をよく見かけたもんだ。私は人に差し入れをすることも、差し入れをもらうこともない寂しい高校生活だったので、シューアイスにアコガレていた。そこで自分で買って自分に差し入れをして食べたが、うまくもなんともなかった。やはりこれは人から差し入れてもらって食べないとダメなんだろう。
それがある日、学校帰り、駅の自転車置き場に自転車を取りに行くと、自転車置き場の管理人のおじいさんが私を物陰に呼び、こっそり私に何かを渡して「よかったら食べや」と言う。自慢じゃないが(自慢にならないが)私はこういうところのおじいさんにはモテるのだ。くれたのはシューアイスであった。溶けかけ。生まれてはじめてシューアイスを差し入れによって手に入れた。私は喜び勇んで自転車にまたがり溶けかけのやつを食べ始めたが、…………やっぱりうまくなかった。OSKにハマって「劇団員の皆さまに差し入れをしたい~」と思い立った時、事情通の人に「シューアイスはやめとけ」と言われた。そういうモノであるらしい。ヒロタに限らず、シューアイスというものは、ダメなのではないだろうか。
実は書きたいのはシューアイスのことでもなくて、古い古いヒロタの思い出のことだ。
今、思い出したのだけど、昭和四十年から五十年にかけての、東京におけるヒロタというのは、「マロングラッセ」の店だった。そうそう、テレビでやたらやってたよ、「ヒロタのマロングラッセ~♪」って。異様に値段が高かったので食べたことはない。ヒロタはマロングラッセで売っていて、廉価菓子としてシュークリームを売ってたのだった。その頃は正方形の、3×3で9コ入りの箱に、ふつうのシュークリームが6コ、チョコのクリームでチョコのかかったチョコシュー(まあエクレアなのだが、細長くないのでエクレアとは言いたくないのでチョコシューとする)が3コ、入っているのである。私はチョコシューばっかり9コ入ってて欲しかったが、もちろんそんなわけにはいかないのである。
ここまで読んで、いったいこの話のどこが官能と関係あるのかとイライラしてらっしゃる方もいるでしょう。すみません。でもちゃんと官能の話です。ヒロタの最高峰マロングラッセと、ヒロタの庶民派(でもよそ行きの)シュークリーム。その中間に、もうひとつ、菓子が位置していたのだ。それは「フルーツケーキ」と「マッシュケーキ」。4センチ立方ぐらいの大きさのケーキが、銀紙と金紙に包まれて、さらに3×3で9コ入りの箱に入っていた。フルーツケーキのほうは、銀地に紫だかで果物のイラストが入っている。問題はマッシュケーキのほうだ。
いったいマッシュケーキって、いかなるケーキだと思いますか。
マッシュケーキは、金地に茶色でキノコの絵が入っている。キ、キノコ? そう、キノコだ。マッシュルームのケーキなのだ。バターケーキに小さく切ったマッシュルームがちらちらと見えるという、マッシュケーキとはそういうものなのだ。金紙を半分むいてある蝋細工が飾ってあったので、中身を知った。キノコの入ったケーキなんて、それ以前にもそれ以後にも聞いたこともない。私は思い出すたびに「ヒロタのマッシュケーキおぼえてないか」と人に聞くが、おぼえてる人もいない。インターネットで「マッシュケーキ」で検索しても出てこない。幻のケーキだ。
私はずっとそのマッシュケーキが気になって気になって、でもヒロタの最高峰ではないもののシュークリームよりずっと高級な範疇のものだったので親は買ってくれず、しょうがないからある日、小遣いで一つ、バラで買ったのである。で、食べてみた。
もう三十年ぐらい前のことであるので、味は思い出せない。単なるバターケーキに妙な歯ごたえのモノが入っているというだけだったような気がする。私がおぼえているのはもっと変なことだ。マッシュケーキを一個買って食べたその日の晩、異様にムラムラしたということなのだ。つまり、エロな気分に陥って、自分を抑えがたく、しょうがなく自分でエロマンガを描いて発散した十歳の私、という、マッシュケーキというとその記憶がぬきがたくついてまわる。
なぜそんなことになったのか、まったくわからない。キノコだからか。たぶん、偶然の一致だろうとは思う。しかし後年、男性器をキノコに擬すということを知った時「ああそうか、やっぱりそうだったのか」と思った。キノコというのは偉大だ。